東京地方裁判所 昭和55年(ワ)429号 判決 1984年10月26日
原告
ゼネラル・エレクトリック・コムパニー
右訴訟代理人
原増司
大場正成
本間崇
福間親男
平川純子
被告
東名ダイヤモンド工業株式会社
被告
株式会社石塚研究所
被告
石塚博
右三名訴訟代理人
内山弘
品川澄雄
新長巖
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、連帯して、金一億三八〇〇万円及びこれに対する昭和五一年五月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を、その登録とともに取得し昭和五一年一二月九日の経過をもつて存続期間が満了するまで、有していた。
発明の名称 高温高圧装置
出願日 昭和三四年九月九日
公告日 昭和三六年一二月九日
登録日 昭和三八年一〇月二日
特許番号 第三一一二三七号
2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「協働する先細パンチ装置と先細圧穿台装置を有し、更に該パンチ装置により導入されるべき該圧穿台装置中に形成された反応室を有し、ガスケット装置が該先細パンチ装置と該圧穿台装置の該先細壁部分との間に挿入されていることを特徴とする高温高圧装置。」
3 本件発明の構成要件を分説すると、次のとおりである。
(一) 先細パンチ装置を有すること。
(二) 先細圧穿台装置を有すること。
(三) 反応室を有すること。
(四) ガスケット装置を有すること。
(五) 先細パンチと先細圧穿台が協働すること。
(六) 反応室は、圧穿台中に形成され、パンチを導入すべきところであること。
(七) ガスケットは、先細パンチと先細圧穿台の先細壁部分との間に挿入されること。
4 本件発明の各構成要件について説明すると、次のとおりである。
(一) 先細パンチ
「パンチ」とは、従来のピストン・シリンダー型装置のピストンに当たるもので、これで反応室内の試料を押して高圧を発生せしめるものである。従来のピストンと区別するために本件発明において特に「パンチ」と名付けた。
「先細」という語は、特に技術用語として独特の意味があるわけではなく、文字どおり先の方が細いことであつて、円錐のように先端まで引続き細くなつている必要はない。いわんや断面の傾斜の線が円味を帯びている必要はない。本件明細書に記載された実施例においても、先端部分は水平に切られた形、すなわち截頭円錐形をしている。
(二) 先細圧穿台
(1) 圧穿台とは、英語のdieであり、ピストン・シリンダー型装置のシリンダーに当たる。これも従来のシリンダーと区別するため特にこう名付けたものである。中央に試料を入れる孔(反応室)をもつている環状の部材である。この中央孔の反応室中に反応物を入れ、ここに圧力を発生させる。
(2) 「先細」の意味は、パンチについて述べたのと同じである。したがつて、圧穿台は、中央孔の中央部まですべて傾斜していなければならないのではなく、先細壁を有すればよい。そして、その先細壁は、ガスケットを間にはさんでパンチと対向する部分である。
これを更に分析してみる。圧穿台中央孔の中央部分は、パンチの先細壁と対向していないので、この部分が先細であつてもなくてもよいことは、明らかである。このことは、本件明細書のパンチを見れば、その先端は、頭の部分が水平に切れているが、それでも本件発明の「先細パンチ」に該当することからも明らかである。圧穿台の先細壁と対向していないパンチ先端部分が水平に切れていても「先細パンチ」であるのに、パンチ先端部分と対向していない圧穿台の中央孔部分が垂直に切れているのは「先細圧穿台」でないというのは、合理的でない。また、本件発明の圧穿台では、開孔部から外側の部分すなわち、本件明細書でいえば反応室から外側へ出ようとする曲がり角の彎曲した部分、後述の被告装置でいえば角の付近が問題なのであり、それから更に外側のガスケットの配置されていない部分の傾斜は「先細壁部分」として必須ではない。なぜなら、本件明細書の特許請求の範囲では「ガスケット装置が……と該圧穿台装置の該先細壁部分との間に挿入され」として(構成要件(七))、先細部分はガスケットの挿入されている部分しか要求されていないからである。したがつて、いずれの場合も、彎曲部又は被告装置の角の付近が先細であれば足りる。そこでは、パンチと圧穿台の先細部分がガスケットをはさんで対向しているからである。
(3) 特許明細書は、一般人や法律家を対象として書かれたものではなく、当該分野の専門家(当業者―に対する技術の開示である。したがつて、特許明細書の解釈は、当該分野の専門家がこれをどう読むかが問題なのである。
ところが、本件発明の属する分野において超高圧装置を研究し、また超高圧発生に携わる人にとつてみれば、右のようなことは極めて自明のことであり、本件明細書で力の分解又はパンチと圧穿台の相互支持について説明している部分は、すべて圧穿台の中央孔の開孔部の彎曲部付近ないし角の付近のことであることが、技術的に理解されるのである。
本件発明において一般人の誤解を生みやすいのは、本件明細書に、具体例の加圧前の図面のみしか記載されておらず、超高圧を発生するということがどういうことか、その結果どうなるかという加圧時の図面が記載されずに、ただ装置の構造的説明に終始しているからであろう。しかし、専門家には、構造さえ示せば、それは説明しなくてもわかるのである。
この点を説明する。ダイアモンドを合成するための高圧は、反応室に挿入された反応物(これはかなり固く固まつた黒鉛と金属の塊である。)を、その容積が約六〇パーセントにまで圧縮されることによつて、初めて発生する。そのためには、当然に、パンチが反応室へ向かつて上下から進入する。その状態を図示すると、別紙参考図第一図及び第二図のとおりである。これらによれば、前述の圧穿台開孔部の彎曲又は角付近で大きな圧力伝達が行われることが一見して理解される。このような場合、その内側又は外側が更に傾斜した部分があつたとしても、その傾斜は実際上、圧穿台中央孔付近で垂直方向圧力を圧穿台に与える役割はほとんどしないのである。
(三) 反応室
圧穿台の中央部にある孔で、そこに試料を入れ、パンチで押圧し、かつ、別に電流を通すなどして、高圧高温を発生させる場所である。
(四) ガスケット
「ガスケット」とは、一般用語として、空隙をうめる物、パッキングであるが、本件発明においては、パンチの移動を可能にしつつ力の伝達をするという独特の重要な役割を果たすものであるから、既存の言葉の意味にとらわれるよりは、本件発明において何を指しているかを理解すべきである。
(五) パンチと圧穿台の協働
(1) 前記先細パンチと先細圧穿台は「協働する」。すなわち、パンチと圧穿台は、それぞれ単独では作用しえず、相互に協働することで初めて所望の働きをすることは、自明である。しかし、この協働は、本件発明に係る装置の特徴ある機構により特徴的な相互支持の役割をも果たしている。
(2) 右の相互支持が、本件発明の中心思想である。すなわち、反応室からの圧力によるポワソン効果を押さえるために、パンチ、圧穿台のそれぞれの側壁が傾斜することにより、その間に挿入されたガスケットを通じて、側壁同士で相互に支持し合い、反応室内の圧力が高まれば高まるほど、この相互支持の圧力も強くなるという構造にしたことが、本件発明の特徴である。
別紙参考図第一図に示すとおり、パンチが圧力を発生するために、内容物を圧縮して反応室の内部へ向けて移動すると、パンチ及び圧穿台は、反作用として、点線矢印で示すような応力を受け、これによつてほぼ全面からの圧力を受けることとなる。すなわち、反応室からの一方的応力だけでなく、側面からの力、押圧力及び本件発明の前提技術である焼きばめによる周囲からの圧縮力で、パンチと圧穿台が圧力を受けて、バランスする。この場合、パンチが受ける側壁からの側面支持力は、圧穿台の傾斜壁に面することにより、ガスケットを通じて圧穿台から反作用として伝達されるもので、これとちようど同じパンチ側壁からの力を、圧穿台も、その側壁のパンチの側壁の先細面と向かい合う部分で受けるのである。このパンチと圧穿台の側壁(先細壁)同士が相互に支持し合うことが、本件発明の先細パンチと先細圧穿台が協働する場合の特徴的な機構であり、作用効果である。
(六) ガスケットの挿入位置
ガスケットの挿入位置についても、まぎらわしいのは、本件明細書の具体例において、ガスケットと同質のパイロフィライトが圧穿台の中央孔の全面にわたつて圧穿台壁を覆つていることである。しかし、図面でもわかるように、実際上ガスケットの役割をしているのは、前述の圧穿台開孔部の彎曲部付近に限られている。すなわち、中央付近は、単にインシュレーターの役割(すなわち、熱的、電気的絶縁をする役割)のみである。
ところが、そもそもガスケットとは、パッキングと同じく、パイプの継ぎ目や栓をしたときの隙間を埋める詰めものである。したがつて、その第一の目的は密封(シール)にある。このようなシールがどこで行われるかといえば、それはパンチと圧穿台の先細面の最も接近する場所、すなわち、圧穿台の開孔部の彎曲部又は角の付近を指すことは、明らかである。したがつて、明細書の具体例においてガスケット材料が中央孔全般の圧穿台壁を覆つていても、実際にガスケットの役割をしているのは、このシール密封の役割をしているところである。
ところで、本件発明におけるガスケットは、次のような役割を具備していなければならない。
(イ) 密封
(ロ) パンチと圧穿台の傾斜壁を通じての圧力の伝達をしつつ、パンチのストロークを可能にすること。
(ハ) パンチと圧穿台の電気絶縁及び熱絶縁
右のうち、熱絶縁を除けば、すべてその作用している部位は、圧穿台開孔部の彎曲ないし角の付近であることがわかる。すなわち、
(a) 密封は、いうまでもなく、圧穿台とパンチの側壁が最も接近する部分で行われることが自明であろう。この封止は、一点において内部の巨大な圧力を支えることはできず、パンチと圧穿台の先細面でガスケットをある程度の面積にわたつて強くはさみ込むことによつて、封止することができるのである。
(b) ガスケットがなければ、そのままパンチを押していくと、パンチと圧穿台は直接接触をする。それ以上押すとどちらかが破壊されるし、それ以上押さないと反応室の圧力を高めることはできない。この圧力を高めるために、更にパンチの移動を可能にしつつ、しかもパンチ先細壁と圧穿台壁の間に圧力の伝達を行わせることが、ガスケットの役割である。そして、これは、本件発明におけるガスケットの独自の用法であつて、本件発明において初めて考案された特徴であり、かつ、新規性ある用法というべきである。このために、ガスケットの選択は、パイロフィライト等、ある程度変形が可能な材料が必要であることが本件明細書に述べられている。
(c) 熱及び電気絶縁のうち、電気絶縁は、パンチと圧穿台が、ガスケットがなければ究極的にどこで接触するかを考えれば、その接触すべき点にガスケットが挿入されていなければならないことが図面から明らかとなる。それは、本件明細書の実施例では開孔部の彎曲部であり、後述の被告装置では角の部分である。したがつて、この付近にガスケットが置かれることが必須となる。
以上の諸点からみると、先細パンチと先細圧穿台の先細壁部分のどの部分でガスケットが挿入されていなければならないかが明らかであり、また、このことから、圧穿台は、開孔部の彎曲部が先細であることが必須であることがわかる。
5 被告東名ダイヤモンド工業株式会社(以下「被告東名」という。)は、昭和四七年一月ころから昭和四八年末までの間、別紙目録記載の高温高圧装置(以下「被告装置」という。)を使用して、人工ダイアモンドを工業的に生産した。
6 被告装置は、本件発明の前記構成要件(一)ないし(七)をすべて充足しているから、本件発明の技術的範囲に属する。すなわち、
(一) 先細パンチ
別紙目録の図面の1及び2で示されるものは、それぞれパンチであり、本件発明にいう先細パンチである。
このパンチの先端部は截頭円錐形をしているが、本件明細書の具体例に示されたものもすべて截頭円錐形をしており、単に字義的にみて一般的な先細パンチの範疇に入るのみでなく、本件明細書の実施例とも一致する先細パンチであること疑問の余地はない。
(二) 先細圧穿台
別紙目録の図面の3で示されるものは、圧穿台である。
この圧穿台は、中央孔の両入口の肩が傾斜して先細壁となつているから、字義上先細圧穿台であることは疑いない。
また、中央孔の内壁が垂直壁になつているが、前記のとおり、圧穿台における先細とは、先細パンチの先細面、すなわち、パンチ先端の側面の先細壁と対応するものであり、このパンチの先細面との協働による相互支持が、本件発明の主眼であるから、このような作用を有する先細面を有することが、本件発明の先細圧穿台の要件であり、この要件と関係のない中央孔内壁が垂直であると否とにかかわらず、被告装置の圧穿台は先細圧穿台に当たる。
(三) 反応室
圧穿台の中央孔の中の空間で、別紙目録の図面のC1C1C2C2で囲まれている部分が、反応室である。
この部分にパンチが導入されることは、一見して明らかである。
(四) ガスケット
別紙目録の図面G1G2で示されるものが、被告装置のガスケットである。
ガスケットの置かれた位置が、パンチと圧穿台の両先細面間であることは、図面から一見明らかである。
ガスケットが右のようにパンチ先細面と圧穿台先細面の間に挿入された以上、パンチが反応室内の試料を押圧するために上下より反応室内に向かつて移動すれば、ガスケットは、必然的に変形し、パンチと圧穿台の先細壁にはさまれて、パンチ先細壁からの圧力を圧穿台先細面に伝達する。
(五) 先細パンチと先細圧穿台の協働と、特徴ある相互支持。
(1) 被告装置の先細パンチと先細圧穿台が協働していることは、自明であろう。先細パンチの側面の先細面は、圧穿台の先細面と相対しており、その間にガスケットがあつて、パンチを押していけば、当然ガスケットを通じてパンチ先細面から圧穿台の先細面に圧力が伝わる。伝われば圧穿台に軸方向圧縮応力が働く。また、逆にパンチは圧穿台から対抗され、先細面に圧縮力が働く。すなわち、協働に際し、特徴ある相互支持を果たしうる機構となつている。
また、ガスケットがある以上、相対するパンチと圧穿台の先細面がぴつたりと平行するものでなくても、大体対応していれば、その間をガスケットが埋めるのであるから、パンチと圧穿台の先細面の傾斜角度が多少違つていても、別段差支えない。
(2) 被告装置においては、チャンバープロテクターと圧穿台の先細壁部分とは、加圧前には、接していないが、超高圧が加えられた場合に金属リング(チャンバープロテクター)などで支え切れるものではなく、一たん曲がり始めると、心ず先細壁面に密着加圧される。ただ、実際上、加圧時の状況は直接観察することができないので、一見立証が難しいようにみえるが、一応の知識をもつた目でその結果をみれば、これが密着していることは、自明である。
このことは、被告装置においては、チャンバープロテクターの傾斜部分が、使用前と使用後とで、横方向において約二〇〇パーセント、縦方向において約一八パーセントもの延びを示すことからも裏付けられる。このようにチャンバープロテクターの圧穿台傾斜面部分に対応する部分が延びているということは、その部分に非常に大きな圧力がかかつたことを証明している。そして、この強い圧力は、加圧時において、チャンバープロテクターの圧穿台の傾斜部に対応する傾斜部分が、パンチと圧穿台に挾まれて圧延されたことによつて生じていることが明らかであるから、パンチ側壁と圧穿台傾斜面との間に、圧力の伝達があつたことを実証するものである。
(3) なお、別紙目録記載の被告装置では、チャンバープロテクターが角の外側の先細面において圧穿台に密着し、その部分において圧穿台先細面とパンチ先細面の力伝達による相互支持が行われているが、本件明細書の実施例に比べれば、比較的密着面積が狭い。しかし、わずかな面積であつても、これにより、最も保護を必要とする中央孔付近において、圧穿台に垂直方向の力が加わることになり、破壊防止力を著しく高める。被告装置のガスケットを大きくし、肩の部分の力伝達が十分行われるようにした装置では、十分量のダイアモンドを合成することができるが、別紙目録記載の被告装置では、限定された範囲でダイアモンド合成圧力、温度を出すことができるにとどまる。このことは、被告装置においても改悪された形で肩の部分のパンチと圧穿台の先細壁でガスケットを通して圧力伝達が行われ、相互に支持していることを示し、本件発明の必須要件を充足している。
7 被告東名は、故意又は過失により、前記期間被告装置を使用して、原告の本件特許権を侵害した。右行為は、すべて被告石塚博の企画の下で行われた。また、同じく被告石塚博が支配する会社である被告株式会社石塚研究所は、被告石塚博の統卒の下に、被告装置の設計、製造をし、これを用いての工業生産においても、直接被告東名に技術指導、経営管理を行い、被告東名の右侵害行為を指導し、これに加担した。右三者は、型式上は人格を異にしているが、実質的には一体で、共同不法行為が成立する。
8 被告東名は、前記期間中に、被告装置を使用して、合計四六〇万カラットの人工ダイアモンドを生産し、これを販売して二七億六〇〇〇万円を得た。本件発明の実施料率は、五パーセントを下らないから、原告は、被告らの前記共同不法行為により、実施料相当額の一億三八〇〇万円の損害を被つた。
9 よつて、原告は、被告らに対し、連帯して、共同不法行為による前記損害金及び侵害行為後である昭和五一年五月一三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1及び2は認める。
2 同3は否認する。
本件発明の構成要件は次のとおり分説すべきである。
(一) 先細パンチ装置と先細圧穿台装置を有すること
(二) 右先細パンチ装置と先細圧穿台装置が協働するものであること
(三) 圧穿台装置中に反応室が形成され、右反応室にパンチ装置が導入されるものであること
(四) ガスケット装置が先細パンチ装置と圧穿台装置の先細壁部分との間に挿入されていること
3 同4のうち、(一)のパンチがピストン・シリンダー型装置のピストンに当たること、(二)(1)の圧穿台が英語のdieを意味し、ピストン・シリンダー型装置のシリンダーに当たること、(四)のガスケットが空隙をうめるパッキングであることは、それぞれ認め、その余は否認する。
本件発明の構成要件の解釈は、後記被告らの主張1のとおりである。
4 同5は認める。
5 同6のうち、(一)及び(三)は認め、その余は否認する。
被告装置が本件発明の技術的範囲に属さないことは、後記被告らの主張2のとおりである。
6 同7は否認する。
7 同8のうち、被告東名の売上高については認め、その余は否認する。
三 被告らの主張
1 本件発明の構成要件の解釈
(一) 本件発明においては、特許請求の範囲の記載だけでは、「先細」とはいかなる形状構造を意味するか、また「協働する」とはどのようなことを意味しているか、「先細壁部分」とはどのような形状のものであり圧穿台装置のどの部分を指すか等は、一切不明である。このような場合には、発明の詳細なる説明や図面の記載を参酌して、本件発明の構成要件の内容を明確にしなければならない。
(二) そこで、本件明細書の発明の詳細なる説明と添付図面を検討すると、次のとおりである。
(1) まず、パンチの形式、構造に関しては、パンチの先細部分の傾斜は、圧力面から大きい区域に向かつて円滑に直径方向に増大していることを示し(公報2頁左欄四ないし一二行。以下「2左四〜一二」のように略記する。)、添付図面第4図も、そのように図示してある。
(2) 次に、圧穿台の形状、構造に関しては、圧穿台の水平中心線から、垂直に対してある角度をもつて傾斜する截頭円錐部分及びそれに続く円滑なフレア付きあるいは彎曲部分を持つことが明らかにされている(3左三一―三七)。すなわち、本件発明に係る装置の圧穿台の中央孔の壁面の形状は、截頭円錐部分と彎曲部分より成り、その彎曲部分の大きさとか截頭円錐部分の角度、長さ等は、設計要素として変化しうるが、これらが変化しうる限度は、この装置がダイアモンドを合成しうる温度、圧力と反応時間とに耐えることが前提である。以上により、本件発明に係る装置の圧穿台の反応室は、垂直な面をもつて臨まれているのではないことが明白である。
(3) また、本件明細書には、従来のピストン・シリンダー型の高圧発生装置においては、ピストンは垂直方向の力だけを受け、発生しうる最大圧力はピストンの圧縮強さによつて制限され、また、シリンダーにはその垂直壁に加わる圧力による上下の破壊(ポアソン効果)及び放射状方向に切れようとするフープ応力による破壊が起こり易いために、一定限度以上の圧力を発生することができなかつたが(1左三七〜右二五)、本件発明においては、パンチに加えられる実質的に垂直な力は、圧穿台の室の内容物を圧縮する力と圧穿台を押す力とに分解され、圧穿台の壁は、パンチから伝達される力及び圧穿台の室から受ける力を、それぞれ垂直方向及び水平方向の力に分解し、各垂直方向の力によつて、フープ圧縮応力が発生し、このフープ圧縮応力が、圧穿台の予加圧に基づくフープ圧縮応力と合して、圧穿台の室の圧力により生成する大成分のフープ引張応力に対抗すること、前述の各垂直方向の力は、圧穿台の壁上方部分を軸方向圧縮応力下においてポアソン効果による破壊を免れしめる効果として作用すること、圧穿台の壁は垂直線に対して傾斜しているので、圧穿台の室から受ける圧力を軽減すること、そして、パンチの先細面は、圧穿台の壁から伝達される力と、圧穿台の室からの圧力とを、それぞれ垂直方向及び水平方向の力に分解し、各水平方向の力によつて、パンチは効果的に締め付けられ、圧縮応力による破壊を免れしめる効果として作用することを内容とし、もつて、材料に固有の圧縮強度、引張強度以上の力に耐え得るものにする、との技術思想が開示されているものである(2右二〇〜三五、3左一五〜三〇)。
右に述べたところから明らかなように、本件発明における先細パンチ装置と先細圧穿台装置の協働とは、前記のような形状、構造をした先細パンチ装置と先細圧穿台装置とが、その組合わせにより、右に述べたような効果をもつ力の伝達と分解を行うように協働することをいうものであるといわねばならない。
(4) 本件発明における協働とは、右に述べたような意味であり、逆に、そのような協働をさせるために、本件発明においては、先細パンチ装置及び先細圧穿台装置を右に述べたような形状、構造、配位としたものであつて、先細パンチ及び先細圧穿台装置が右以外の形状等をもつて力の伝達及び分解において協働することについては、本件明細書中になんらの開示もない。
特に、本件明細書中には、圧穿台の中央孔の内壁が垂直のものについては、全く記載するところがない。そればかりでなく、本件明細書に記載されている本件発明に係る装置のもたらす作用効果は、圧穿台中央孔の内壁が傾斜しているものを前提とすることによつて、初めて合理的にかつ矛盾なく理解しうる。すなわち、本件明細書には、二つの実施の態様が記載されているが、いずれの場合にも、圧穿台の中央孔は、収斂発散壁面を有している。先細パンチとかかる形状の中央孔を有する圧穿台との組合わせを用いることによつて、パンチが作動した場合、パンチから圧穿台への力の伝達と圧穿台収斂発散壁面における力の分解とが生じるというのが、本件発明の作用効果として明細書に記載されているところである。圧穿台の中央孔の内壁が垂直のものを用いた場合には、かかる力の伝達と力の分解を生じない。
右のとおりであるから、仮に、圧穿台にその中央孔の内壁が垂直なものを用いることによつて、人工ダイアモンドの合成が可能となつたとしても、その結果、本件発明の技術的範囲に、そのような圧穿台を使用する態様が包含されるということには、なりえない。
(5) 本件明細書は、添付図面第1図や第3図に示すように、反応室の内壁が垂直壁である型式の圧穿台では、パンチによる加圧によつて反応室に高圧を生ぜしめようとするとき、ポワソン効果による応力と、フープ応力とによつて、圧穿台は破壊し、それらの破壊力は、考えられる最強の構造材料の極限応力を超えるから、最強の構造材料を用いたとしても、圧穿台をかかる公知の型式のものにする限り、所望の高温高圧を生成保持しうる装置は得られないとしている(1左二二、二三、二六〜二九、三七〜右二五)。
本件明細書の右の説明は、従来公知の圧穿台では、本件発明の目的とする摂氏数千度の温度及び四万ないし一〇万気圧程度の圧力を長時間にわたり生成しうる装置を得ることが不可能であるとの認識を、最も簡単な型式の圧穿台を用いて説明したものであつて、圧穿台の構造材料として既知の最強のものを選び、これに公知の補強手段たる質量支持をとり入れて、圧穿台の厚みを外に向かつて漸次厚くするとともに、更に公知の補強手段たる予加圧を採用して、圧穿台を焼きはめの手法により、多数のリング状のものの組合わせによつて構成せしめて、それらによつて、公知の圧穿台として最強の構造のものとした場合をも対象に含めた説明であることは、いうまでもない。
本件発明は、このような公知技術として最強の構造の圧穿台に、更にその中央孔(圧穿台の反応室に面した部分)の壁面を先細面とするという新規な着想を加えたのである。
2 被告装置について
(一) 被告装置は、中央孔が垂直円筒状であつて、圧穿台には截頭円錐部分もそれに続く円滑なフレア付あるいは彎曲部分を持つておらず、圧穿台が反応室から受ける力は、純粋に横方向のみであるから、この力が水平及び垂直方向に分解されることはない。圧穿台の傾斜壁面は、質量支持を与える補強の用をする外側面であり、反応室の壁部分ではない。したがつて、被告装置の圧穿台は、本件発明における先細圧穿台ではない。
(二) 被告装置は、本件発明における先細圧穿台を有しないから、本件発明におけるような意味での協働が行われることはない。すなわち、圧穿台の中央孔の内壁において力の分解がされるということはない。したがつて、原告主張のように、仮に圧穿台中央孔の外側の質量支持のために設けられた傾斜壁面において、ガスケットを通じて力の伝達が行われたとしても、本件発明の技術的範囲に属するものではない。
(三) のみならず、被告装置においては、右傾斜壁面とパンチとの間の力の伝達はない。
被告装置の圧穿台の傾斜壁面の傾斜角度は、水平軸を基準とすれば三五度であり、パンチの先細壁の傾斜角度は、水平軸を基準とすれば一二〇度(その補角は六〇度)である。したがつて、被告装置においては、パンチが圧穿台の中央孔にいかに深く押し入れられても、パンチの先細壁が圧穿台の傾斜壁面に触れることは、ありえない。また、被告装置のチャンバープロテクターの傾斜面の傾斜角度は、加圧後も、水平軸を基準として平均四六度あり、使用によつて変形したチャンバープロテクターは、圧穿台傾斜壁面に触れていない。これらのことから、パンチ側壁と圧穿台傾斜壁面との間に圧力の伝達がないことが明らかである。
(四) 被告装置の圧穿台は、本件明細書添付図面第1図、第3図に示される型式のものに、公知の補強手段たる質量支持を採用して、別紙目録のA1―A2より外側の厚みを外縁に向かつて漸次厚くし、かつ、焼ばめによる予加圧を応用して製作されているだけで、そのままでは、ダイアモンドを合成するに必要な圧力、温度に耐えず、破壊を免れない。被告装置は、アルミナ製中空円筒体を使用することにより、圧力を減衰して圧穿台の壁に伝え、これにより装置の破壊を防止しているものである。例えば、被告装置において、圧穿台中央孔の室内に、五五キロバールの内圧を発生させたときでも、中空円筒体の外側、すなわち圧穿台内壁の垂直面に加わる圧力は、約二二キロバールにまで減衰される。このように、被告装置は、本件発明の圧穿台のような先細面を用いず、パンチと圧穿台の協働もなく、十分所望の高温高圧に耐えることができるものである。
被告装置が、本件発明とは別異の耐圧原理、耐圧機構に基くものであることは、明らかである。
(五) 以上のとおり、被告装置が本件発明の技術的範囲に属さないことは、明らかである。
四 被告らの主張に対する原告の反論
被告装置の中空円筒体には、被告らの主張するような圧力減衰効果はない。これを説明すると、次のとおりである。
(一) まず、中空円筒体が圧力の減衰に役立つとすれば、それは壊れていない場合でなければならない。壊れてしまえば、それぞれの断片が圧穿台内壁に押しつけられているだけであつて、圧力減衰効果のないことは、自明である。しかるに、事実は、加圧により中空円筒体は壊れてしまうのである。
中空円筒体が、加圧初期段階で音をたてて破壊されることは、実験により明らかである。また、理論的にも、アルミナ製中空円筒体は、破壊されざるをえない。すなわち、加圧時に仮に圧穿台内壁に二万気圧(二〇キロバール)の圧力がかかると、タングステン・カーバイド製の圧穿台の孔は、この圧力により約0.28ミリメートル拡がる。しかるに、アルミナ製の中空円筒体は、その物性上、破壊されずには約0.05ミリメートルほどしか膨らめない。ここでもし中空円筒体が弾性限界内で破壊されずに頑張りとおしたとすれば、中空円筒体は、圧穿台の垂直壁に接触しないこととなり、内圧は圧穿台に到達せずに中空円筒体内部に封じ込められることになる。しかし、そのようなことは、ありえず(中空円筒体は、それ自体では、二〇キロバールの内圧には耐えない。)、中空円筒体は、圧穿台内壁に押しつけられる。ということは、弾性限界を越えて、破壊しているということになる。
(二) 中空円筒体が圧力減衰効果を有するのであれば、圧穿台の孔を中空円筒体の厚みの分だけ小さくすれば、同じ圧力減衰効果があるはずである。しかし、パンチと圧穿台の協働のない従来のピストン・シリンダー型装置では、圧穿台の材質を最適のタングステンカーバイトにしてみても、ダイアモンド合成圧には耐えられずに破壊することが知られているのであるから、そこで孔の径を小さくしてみても破壊強度の向上には効果がないことは、明らかである。このことからも、中空円筒体に圧力減衰効果があるというのは誤りである。
第三 証拠<省略>
理由
一原告が本件特許権をその設定登録とともに取得し、昭和五一年一二月九日の経過をもつて存続期間が満了するまで有していたこと、本件明細書の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
右特許請求の範囲の記載によれば、本件発明は、高温高圧装置に関するもので、次の構成要件から成るものであると認められる。
(A) 先細パンチ装置を有すること
(B) 先細圧穿台装置を有すること
(C) 右パンチ装置と圧穿台装置が協働すること
(D) 右パンチ装置により導入されるべき右圧穿台装置中に形成された反応室を有すること
(E) ガスケット装置が右先細パンチ装置と右圧穿台装置の先細壁部分との間に挿入されていること
右の各構成要件中の「先細パンチ」「先細圧穿台」「協働」「先細壁部分」という用語は、それだけでは具体的装置の構成の特定としては、十分明らかとはいえないから、本件明細書の他の記載によりこれを確定しなければならない。
ところで、被告は、被告装置のパンチが本件発明の先細パンチに該当することを争つていないので、以下、構成要件(B)の「先細圧穿台」、同(C)の「協働」及び同(E)の「先細壁部分」の意味について検討する。
二まず、構成要件(B)の「先細圧穿台」の意味について検討する。
1 本件発明に係る特許公報によれば、本件明細書の発明の詳細なる説明中に、「先細圧穿台」について、その意味、形状を定義した部分はないものと認められる。
のみならず、発明の詳細なる説明中には、本件発明の構成を一般的に説明する体裁をとつた部分は、全くない。即ち、本件明細書の発明の詳細なる説明は、次の一三の部分に分けることができる。
① 本件発明の目的
② 一実施態様の概要
③ 従前技術とその問題点
④ 添付図面第4ないし第6図に示された実施例の概要
⑤ 右実施例のパンチの説明
⑥ 右実施例の圧穿台の説明
⑦ 右実施例のガスケツトの説明
⑧ 右実施例の反応容器の説明
⑨ 右実施例の装置全体の説明
⑩ 添付図面第7図に示された実施例の説明
⑪ 圧力測定の説明
⑫ 温度測定の説明
⑬ 添付図面第4ないし第6図に示された実施例によるダイアモンド生成例の説明
右のとおり、本件明細書の発明の詳細なる説明中には、本件発明の構成について一般的に説明をする体裁をとつた部分は全くなく、実施態様又は添付図面に示された実施例の構成についての説明に終始している。
特許明細書の発明の詳細なる説明には発明の構成を記載しなければならず(特許法施行規則(大正一〇年農商務省令第三三号)第三八条第三項)、実施態様又は実施例の説明は、その理解を助けるために記載されるものにすぎない。したがつて、本件明細書のように、発明の構成についての一般的に説明をする体裁をとつた部分がなく、実施態様又は実施例の説明に終始している場合には、実施態様又は実施例の説明中に、本件発明の構成の一般的説明がされているものと解するほかはない。
2 そこで本件明細書の発明の詳細なる説明を更に検討するに、そこには、圧穿台の先細形状に関連するものとして、次のような記載がある。
(1) 「本発明を実施するに当り、或る形式においてその中に収斂発散孔を有する環状抗圧部材即ち圧穿台が、一対の相対する細先パンチの間に共軸的に配置される。」
(2) 「パンチ23は、一般に狭くなつた先細部分24を有し、その傾斜はパンチの長さに沿つて軸方向に圧力面22より与えられた大きい区域25に向つて円滑に直径方向に増大している。パンチ23は、直径が約1.5inである実質的に円筒状部分即ち基部26、広範囲の角度を有し而してひとつの形式では鉛直線に対して30度の角度をなし、かつ約1/4in伸出せるより小なる截頭円錐部27、ならびに区域22より区域25に向つて円滑にして連続なる表面を与える中間にフレアを有する彎曲部分28を有す。」(2左四〜一二)
(3) 「パンチを破壊に抵抗せしめるに使用される他の原理は、予加庄である。第4図において、パンチ23はプレスばめ或は焼ばめの既知の方法によつて組合わされた多数の金属円筒状或は環状バックリング或は結束リング内に共軸的に取付けられることにより予加圧される。」
(4) 「結束リングの主なる機能は、パンチ内に発達する放射状外方圧力に対抗し、かつ高圧下でパンチが破壊するのを防ぐためにパンチ17上に充分なる放射状内方圧力を与えることである。」
(5) 「パンチ23、23'は、壁表面35をその中に備えた中央孔、即ち第5図に図示せる反応槽36のごときその中へパンチ23、23'が試料或は材料を圧縮するよう移動進行する狭い先細の、即ち収斂発散圧穿台室34として一般的に記述された中央孔を有する圧穿台33より成る側圧抵抗部即ち圧穿台集合体42との関連で使用される。先細パンチ及び先細圧穿台室のこの組合わせは、パンチ及び圧穿台の両者の強さに貢献する。各パンチに関して、第1図において筒状パンチ10の唯一面のみが圧縮力に抗し得るが、第4図の先細パンチ23では、前記力は22のごときパンチの一面のみでなく、先細面24によつてもまた対抗される。この故に、先細パンチは効果的に圧縮され、かつ、構築され、かつその強さはより効果的に使用される。同時に、後に指摘されるごとくパンチ23の力は圧穿台33の室34の先細表面35に伝達される。」
(6) 「再び第1図において加えられた力は室11の垂直壁18に対して全く横方向であるが、第4図においてこれ等の力は横方向即ち水平方向であるのみでなく、室34の水平中心線における完全なる水平より、壁35の傾斜の進行にともなつて水平及び垂直の組合わせの方向に進展する。傾斜面24及び35の特別の組合わせは、力分解効果に貢献する。即ち前記先細面は、第1図における筒状パンチ10上に加えられた実質的に垂直方向のみの力を、第4図のパンチ23上の水平及び垂直方向の力の組合わせに分解する。」
(7) 「結束リング及び圧穿台33は水平に対して7度の勾配を与えるよう放射状方向に高さを増加し、これは順次パンチの勾配と同様に加えられた応力に対して材質の横断面を増加せしめるよう作用する。」
(8) 「垂直方向の力が先細面24によつていかにして水平及び垂直方向に分解されるかはパンチ23に関して既に記載された。室34の先細即ち収斂壁面35は、圧穿台33において力を同様に分解する。例えば、結束リング37、38は、第3図に示されたごとき放射状破壊を防ぐ。第1図に示された放射状方向引張り破壊を防ぐために、室壁35は単に横方向のみの力だけを受けない、何となればパンチ及び圧穿台配置の組合わせが圧穿台33の力を、室34及び壁35の水平中心線における純粋な横方向より壁35の上方極限における垂直方向に到達するよう分解するからである。彎曲面35を通つて伝達される軸方向荷量は壁35の上方部分を軸方向圧縮応力下に置く、またこれに対する反動としてフープ圧縮の成分が発生する。反応容器36のごとき室34の内容物の圧力は、壁を室圧力に等しい放射状圧縮下に置き、同時に大成分のフープ応力を生成する。後者は、予加圧に基づく本来のフープ圧縮プラス軸方向荷重によりフープ圧縮の導入成分により対抗される。これ等の組合わさつた力は、第1図における矢印20及び第3図における矢印21'により示される型の引張り力に抗してリング中の材質を圧縮するよう作用する。」
(9) 「第4図の具体例において、壁35は、圧穿台33の水平中心線において約0.4inの中心線上の開孔部と会合する一対の截頭円錐部分40及び40'により規定される。截頭円錐部分は、約1/4in伸出して垂直線に11度の角度をなす。円滑なフレア付き或は彎曲部分41及び41'は截頭円錐部分40及び40'を圧穿台33で始まる前述の7度の勾配を与えるよう連続的な表面を提供する。」
(10) 「パンチ23の傾斜24と先細圧穿台表面35との間の組合わせ及び協力関係は、装置の能力を高温度及び高圧に抵抗するよう大いに増加せしめる装置として図示され、かつ記載された。しかしながら、傾斜付パンチ及び前述の傾斜付開孔部の固有の組合わせは、圧穿台室34内の材料に生じた高圧がパンチの行程或は室内の材料を圧するためのパンチの能力に依存するので、高圧を与えることは出来ない。」
(11) 「外方ガスケット45は、その外表面が圧穿台壁35の彎曲部41に沿つて、また圧穿台壁35の截頭円錐部40の全範囲に沿つて位置するよう構成される。」
3 右の各記載のうち、(1)は、一応「或る形式においては」と断つているものの、発明の詳細なる説明中、前記①の本件発明の目的に次いで極めて簡略に本件発明の実施態様を述べた前記②の部分にあるもので、圧穿台の形状の本質的部分を概説したものと考えられる。なお、右の或る形式のほかの実施態様としては、「一対の相対するパンチ」の代わりに「単一パンチ」を有する形式のものが示されている(第7図)が、「その中に収斂発散孔を有する圧穿台」に代わる圧穿台の他の形式は、本件明細書中には示されていない。
(2)ないし(6)の記載は、前記⑤のパンチの説明中にあり、第4図に示された本件発明の好適な具体例について、先細圧穿台と組合せられる先細パンチ装置の形状及びその破壊強度向上について説明した部分であつて、圧穿台の形状及びその破壊強度向上につき参照されるべき事柄が説明されている。
(7)ないし(9)の記載は、前記⑥の圧穿台の説明中にあるものである。そのうち(9)は、「第4図の具体例において」と断つており、第4図に示された実施例に具体的な数値を与えているだけであることが明らかである。したがつて、そこに示された長さや角度の数値をそのまま一般化して、本件発明の圧穿台の形状を確定することはできない。また、(7)は、右同様、勾配について数値を特定していること、その段落の冒頭に「その外径が約2.4inである第4図の圧穿台33もまた」との大きさを特定した記載があることから、これも実施例についての説明と見られる上、圧穿台の破壊防止のための既知の手段である「高強度材質」の使用、「予加圧」に続いて記載されており、その勾配の技術的意味について特段の説明がされていないことから、やはり既知の手段である質量について述べたにすぎないものと解される。
これに対し、(2)ないし(6)及び(8)は、第4ないし第6図に付された数字を引用しながら記述されていることからすれば、これらの図に示された実施例についての説明の体裁をとつている(このことは、前記④の部分でも、「第4図に示された本発明の好適なる具体例において」と断つてあり、また、前記⑩の部分の冒頭に「本発明の好適なる形式よりの多くの改変形が可能なことは明白である。」とされていることからも、明らかである。)にもかかわらずそれらの数値を離れてより一般化された説明もなされ、本件明細書及び図面の他の部分に一般的な記述が全く存在しない以上、これらの記載中に、本件発明における「先細圧穿台」の一般的説明が、実施例の説明の体裁において、されているものと解するのが相当である。
(10)及び(11)はガスケット装置の役割と、その挿入個所についての説明で、圧穿台の形状を確定する上で参照されるべき事柄が記載されている。
(二) そこでまず、右の記載(2)ないし(6)をみるに、これらの記載は前記⑤のパンチの説明に属し、(2)において、パンチ23は、一般に狭くなつた先細部分24を有し、その傾斜はパンチの長さに沿つて軸方向に圧力面22より与えられた大きい区域25に向つて円滑に直径方向に増大し、円滑にして連続なる表面を与えるフレアを中間に有する彎曲部分28を有する、と圧穿台と対向する部分の形状が説明された後、(3)及び(4)において、パンチ23はプレスばめ或は焼ばめによつて、その外周に多数の金属円筒状或は環状バックリング或は結束リングが共軸的に取付けられること、及びこの結束リング等の主なる機能は、これらによつてパンチ内に発達する放射状外方圧力に対抗するに充分なる放射状内方圧力を与えることであることが説明されている。
また、(5)及び(6)において、前記⑥の圧穿台の説明における(8)の記載を先取りにした形で、前記(2)、(3)及び(4)で説明されたパンチ23は、先細の、即ち収斂発散圧穿台室34として一般に記述された中央孔を有する圧穿台33よりなる側圧抵抗部即ち圧穿台集合体42との関連で使用され、この先細パンチの傾斜面24及び先細圧穿台室の壁面35のこの組合わせは、パンチ及び圧穿台の両者の強さに貢献することが記載されている。
そして、先細パンチに関して、第1図の従来の装置においては、筒状パンチ10の唯一面のみが圧縮力に抗し得るが、第4図の先細パンチ23では、前記力は22のごときパンチの一面のみでなく、先細表面24によつてもまた対抗され、パンチ23に加えられる実質的に垂直方向のみの力が水平及び垂直方向の力の組合せに分解されて、先細パンチは効果的に圧縮され、かつその強さはより効果的に使用され、それと同時に、パンチ23の力は圧穿台33の室34の先細表面35に伝達される、と記載され、パンチにおける破壊強度の向上が、圧穿台の先細壁表面との関係で説明されている。
(三) なお、(5)においては、圧穿台の形状は中央孔の形状を説明する方法で説明されている。そして、中央孔は、「狭い先細の、即ち収斂発散圧穿台室34として一般的に記述された中央孔」とされていることから明らかなとおり、それ自体「先細」であること、すなわち、ピストン・シリンダー型装置のシリンダーのように円筒形のものであつてはならず、孔の入口において広く奥へ行くほど狭くなつていることが、「一般的」な要件とされているものと認められる。このような形状の中央孔を提供するのが、圧穿台の壁表面35であり、このような形状の先細圧穿台室と先細パンチとの組合わせが、パンチと圧穿台の破壊防止の役割を果しているとしている。
(四) そして、(6)の記載、特に、(6)の第一文は、(8)の第四文と、ほとんど同一であつて、従来のピストン・シリンダー型装置では、圧穿台(シリンダー)の室の壁が垂直であつたため、壁が受ける力も水平方向のみであつたところ、本件発明に係る装置においては、圧穿台室34の壁35が、水平中心線を除けば、その全体にわたり傾斜しており、かつ、その傾斜が進行する(すなわち、壁の端部に行くほどその傾斜が垂直面に対して大となる)ので、壁が受ける力は、水平方向と垂直方向に分解され、壁の端部に行くほど垂直方向の力が大となり、力分解効果があることを明らかにしている。
(五) そして、(8)の記載は、前記のとおり、圧穿台についての説明中に位置し、かつ、(7)及び(9)よりも一般的な記述であると解されるから、圧穿台の一般的説明として最も重要な部分であると考えられる。
(8)の記載は、全部で八文から成る。第一文及び第二文は、パンチについての説明を受け、パンチの先細面における力の水平方向及び垂直方向への分解と同様に、パンチ及び圧穿台配置の組合わせが圧穿台の先細壁面も力を分解するとして、力の水平、垂直方向への分解が、先細壁面35の特徴であることを述べている。続いて、第三文は、結束リングが放射状破壊を防ぐことを述べているが、これは、既知の破壊防止手段である予加圧を、後記第七文との関係で述べたにすぎないものと解される。第四文は、前記(6)の記載につき述べたところとほぼ重複するが、パンチ及び圧穿台装置の組合わせにより、圧穿台の室壁35が、水平中心線においては水平方向の力を受けるが、その一線以外では、水平方向のみの力を受けず、力が水平及び垂直方向に分解され、壁35の上方極限(端部)では、ほぼ垂直方向の力のみを受けるよう構成されていることによつて、ポワソン効果(本件明細書では、ポイゾン効果と記載されている。)による破壊を防止していることを説明しているものと解される。すなわち、別紙参考図第三図に示すように、壁35が受ける力は、中央線においては同図ののように水平方向であるが、それ以外の部分では、、、のようにいずれも水平方向と垂直方向の力に分解され、壁35の上方極限では、ほぼ垂直方向の力のみとなること、それにより、圧穿台に水平方向の力がかかることによつて生じるポワソン効果による破壊が防がれるとしているものと解される。次に第五ないし第七文は、壁35の上方部分が、彎曲面35を通つて伝達されるパンチの軸方向(垂直方向)荷重により軸方向圧縮応力下におかれ、その反動としてフープ圧縮の成分が発生するが、反応容器36のような室34の内容物の圧力が壁を放射状圧縮下に置くことによつて生成される大成分のフープ応力は、予加圧に基づく本来のフープ圧縮と、前記した軸方向荷重により生じたフープ圧縮の導入成分により対抗されて、圧穿台の破壊を防ぐことができることを説明している。そして、第八文は、以上の記載を総括して、ピストン・シリンダー型装置の欠点であつたポワソン効果及びフープ応力による圧穿台の破壊は、以上のような力により対抗され、本件発明に係る装置では、破壊が防止されるものとしている。
(六) (10)は、前記⑦のガスケットの説明の冒頭に位置し、前記⑤のパンチの説明及び⑥の圧穿台の説明を受けて、これを総括する形で、ガスケットの必要性について述べる部分である。ここでは、前記(5)ないし(9)で説明された先細圧穿台表面35とパンチ23の傾斜24との固有の組合わせによつて、装置が高温、高圧に耐えうるものとなるとしている。
(七) そして、本件明細書において35をもつて表示されている部位は、添付図面上は必ずしも明確ではなく、また、発明の詳細なる説明中でも、「壁表面」「先細表面」「壁」「先細即ち収斂壁面」「室壁」「彎曲面」「先細圧穿台表面」「圧穿台壁」と、多様な名称で呼ばれているが、同一の明細書中で同一の番号をもつて記載されている以上、すべて同一の部位を指すものであること(これは、明細書記載上の最も基本的な約束事の一つである。)が明らかであり、前記(5)ないし(10)の記載について判示したところから既に明らかになつたとおり、圧穿台の中央孔に面する壁面全体を指すものであると認められる。このことは、前記(11)の記載で更に明確にされており、圧穿台壁35は、彎曲部(前記(9)では、「円滑なフレア付き或は彎曲部分」とされている。)41と截頭円錐部40とから成るものであるとされている。そして、この彎曲部分の形状は、これに関連する前記記載(5)(6)(8)(9)および図面に「円滑なフレア付き或は彎曲部分」として説明、図示されており、これに反する記載も示唆もないこと、圧穿台の破壊が生じ易い部分を、特許請求の範囲には記載されていないが当然の前提となつている予加圧を含め、その周囲からほぼ均等に圧縮することを目的として、パンチの軸方向荷重を、パンチの先細壁面の形状と相俟つて、水平及び垂直方向に分解するために規定された表面であること、及び、高圧装置にあつては、応力の集中による材料の破壊を避けるために可能な限り広い面積で部材が作用し合うようにすることが古くから当業者の常識であること、等を考え合せると、前記の目的を達し効果を奏するに足る、ある程度の広い面積をもつて先細パンチ装置の先細壁部分とほぼ平行に対向する円滑な曲面であることを要するものと認められる。そして、前記(11)において、外方ガスケット45が、彎曲部と截頭円錐部とから成る圧穿台壁の全範囲に沿つて位置するよう構成されると記載されていることは、本件発明の構成要件(E)と符合している。すなわち、構成要件(E)は、ガスケット装置の挿入されるべき位置を、先細パンチ装置と先細圧穿台装置の先細壁部分と呼ばれる場所と接して配置されねばならないことを明らかにしている。右の先細壁部分と呼ばれる場所が、前記の多種多様の名称で呼ばれる35の部分を指していることは、以上のことから明白であるといえる。原告は、構成要件(E)を、先細壁部分はガスケット装置の挿入される部分だけでよいと主張し、そのことを、中央孔に面する壁面全体が先細である必要はないことの一根拠としているが、その主張は、右に本件明細書の記載及び図面に基づいて検討してきたところによつて採用の限りではない。
(三) 以上の前記(1)ないし(11)の記載内容を総合すれば、本件明細書添付図面第4ないし第6図に示された実施例を用いての説明においては、圧穿台が先細となつているということは、中央孔に面する壁面が、その先端の水平中心線に至るまで次第に細くなるよう構成されており、かつ、少なくとも右壁面の上下端部付近において、垂直面に対する傾斜が次第に大になるように彎曲していることを意味しているものと認められる。
なお、第4ないし第6図に示された実施例においては、中央孔に面する壁面に続くガスケット装置が存在しない外側も、勾配を有するものとされており、前記(7)、(9)でもその旨の説明がされているが、前記のとおり、これは、既知の技術である質量支持を用いることを明らかにしたにすぎず、この勾配をもつて「先細圧穿台」というのではないことが明らかである。
そして、前記のとおり、右実施例以外の実施例としては、単一パンチのものが示されているが、これは、第4ないし第6図に示された実施例の上半分だけの装置であることが明らかであるから、圧穿台が先細であることの意味も、全く同一であると認められる。圧穿台の他の形状について説明した部分はない。
4 以上の1ないし3によれば、本件発明における「先細圧穿台」とは、中央孔に面する壁面が、その先端の水平中心線に至るまで次第に細くなつており、かつ、少なくとも右壁面の端部付近が彎曲していることを一般的な要件とするものを意味するものと認めるのが相当である。
そして、以上の構成の先細圧穿台とすることによる圧穿台の破壊防止の技術的意味は、前記(8)の記載に関して述べたとおりであるが、<証拠>によれば、これを換言すると、圧穿台の中央孔に面する部分を準静圧(静水圧)状態におくこと、すなわち、別紙参考図第三図に示すように、圧穿台の水平中心線近傍を含む中央孔に面する部分が、四方八方からそれぞれ力を受け、その部分の力の均衡が保たれることによつて、従来装置において中央孔の壁面が水平方向の力のみを受ける場合に生じたポワソン効果及びフープ応力による破壊が防止されるという趣旨であるものと認められる。
5 原告は、本件発明の「先細圧穿台」は、ガスケット装置を介してパンチ装置と対向する部分に先細壁を有すれば、その余はどのような形状のものでもよく、中央孔の中央部分に面する壁面が垂直であつてもよい旨主張する。そして、当業者の立場で本件明細書を読めば、右壁面の彎曲部が先細であることのみが必須であることがわかるとし、<証拠>には、原告の右主張に沿う部分が存する。
しかし、前記のとおり、本件明細書においては、先細圧穿台の中央孔に面する壁面は、彎曲部に続いて水平中心線に至るまで次第に細くなつているものとされていることが明らかであり、また、「先細」とされることの技術的意味についても、軸方向荷重が主として壁面の端部に伝達されることによつて圧穿台の破壊を防止する効果があることと、中央孔に発生した圧力が壁面全体にわたつて水平方向と垂直方向に分解されることによつて圧穿台の破壊を防止する効果があることの両方が明らかにされている。そして、中央孔の中央部分に面する壁面が垂直であつてもよいというようなことは、全く記載されていない。むしろ、前記(6)の記載においては、ピストン・シリンダー型装置のシリンダーの反応室が「垂直壁」を有することに対比させて、本件発明に係る装置がすぐれている所以を説明しているほどである。したがつて、原告主張のように、壁面の端部の構成及び作用効果のみを強調し、広い解釈をすることは、根拠がなく、採用しえない。
また、前認定のとおり、本件発明の先細圧穿台は、中央孔に面する壁面の少なくとも端部付近が彎曲しているものでなければならないから、右部分が単なる直線状の傾斜面であるものは含まれないことが明らかである。広義における先細でありさえすればそのような形状、例えば角を有するものでも含まれるとする原告の主張は、この点においても採用することができない。
なお、本件明細書の前記⑩の部分の冒頭には、「本発明の好適なる形式よりの多くの改変形が可能なことは明白である。」との記載があり、本件明細書に示された実施例に限定されない旨の留保がされているが、このような余りにも抽象的な留保文言を付することによつて、発明の技術的範囲を具体的に明細書に開示されたものより広く解することは許されないというべきである(そのようなことが許されるなら、出願人は誰しも、右の決まり文句を明細書に書き込みさえすれば、明細書の発明の詳細なる説明及び図面に開示され、特許請求の範囲に記載された技術思想より広いものを自己の発明であると主張することができることになる。)。したがつて、右のような留保文言の有無に関わりなく、前記のように発明の一般的説明を欠く本件のような明細書にあつては、実施例についての説明を通じて明らかにされたところによつて、発明の技術的範囲を定めるべきである。
そして、明細書の記載は、当業者の立場において解釈されるべきであることは、原告主張のとおりであるが、それは、あくまで「明細書の記載」の解釈であるから、それを離れたところに当業者としての解釈が成立するものではない。また、明細書の記載は、発明者が創作した技術思想を説明したものであるから、その文言には、発明者自身が発明の内容と認識したところが表現されているものであるところ、客観的立場にある当業者が、明細書の記載から、記載された技術思想を超えてより上位の技術思想に容易に想到しうることもあり、また、明細書に記載された構成のうち、重要な一部分のみでも、同様の目的を達することができることに、容易に気がつくこともあると考えられる。しかし、このような場合に、明細書が当業者の立場において解釈されるべきであるとの故をもつて、より上位の技術思想や構成の重要部分のみが発明の内容であると解することは、許されない。当業者が容易に想到しうる以上、右の上位の技術思想等は、別個の特許たる要件を欠くものであるが、そのことと、右の上位の技術思想等が当該発明の技術的範囲に含まれるか否かとは、別の問題であつて、当該発明の技術的範囲は、明細書の発明の詳細なる説明及び図面に開示され、特許請求の範囲に記載されたところに基づいて確定されるべきは当然である。これを本件についてみるに、圧穿台の先細壁面のうち、端部のみが彎曲しておれば足り、中央孔に面する部分が垂直の壁面となつていても、同様の目的を達することができることが、本件明細書の記載から当業者の容易に想到しうるところであつたと仮定しても、前記のような本件明細書の記載からは、出願人自身は本件発明を、中央孔に面する壁面が、水平中心線に至るまで次第に細くなり、かつ、少なくとも右壁面の端部付近が彎曲している圧穿台により目的を達することをその内容として特許出願をし、その発明について本件特許権を受けたものと解さざるをえない。原告の主張及び前掲各証拠は、本件明細書中の先細壁面の中央孔に面する部分の構成及び作用効果についての記載をことさら無視し、圧穿台の肩部(右壁面端部付近を指す。以下同じ。)の構成及び作用効果のみを強調するものであり、その肩部の構成も、彎曲している必要はなく、単なる傾斜部でよいとするものであつて、本件明細書全体の記載に忠実な解釈とは考え難い。本件明細書において開示された装置の破壊防止の原理は、原告が主張し、前記各証拠が同調するとおり、主として肩部における相互支持であつて、先細壁面の中央孔に面する部分における力の分解は、それほど重要な意味を持つていないものであるとしても、そのうち重要部分のみをとり上げて特許出願するか、両者を合わせ持つ装置として特許出願するかは、出願人の選択に係るところであつて、本件明細書の記載から見る限り、本件では後者を選択したものと言わざるをえない。もし、真実原告のいうような内容のものとして本件発明が特許出願されたのであれば発明者は、前記のような抽象的な留保文言に頼ることなく、容易に他の実施例を具体的に挙示することができたはずである。
なお、発明の構成要件は、明細書の記載から判断すべきであるのは、当然のことであるが、本件では、そのことは、一層強調されなければならない。すなわち、<証拠>によれば、本件発明に係る装置は、アメリカにおいては、既に昭和三〇年に完成され、完成された旨の事実のみが公表されたが、その内容は、研究の過程も含めて、一切公表されていなかつたこと、これらが公表されたのは、本件発明の特許出願の翌年である昭和三五年になつてからであつたこと、したがつて、本件発明の特許出願時においては、当業者すなわち高温高圧装置の分野における通常の知識を有する者は、ピストン・シリンダー型装置、アンビル型装置等の旧来の装置や物理、化学等の一般的知識のほかは、全く何の予備知識も持ち合わせていなかつたこと、本件発明に係る装置は、これら旧来の装置の単なる改良ではなく、これらとは異なる新規な破壊強度を向上させる原理を用いた装置であることが認められる。これらの事実からすれば、当業者は、本件発明の内容については、本件明細書の記載のみによつて理解するほかはなかつたものと認められる。したがつて、本件明細書において、本件発明の内容がどのように説明されているかということは、極めて重要である。当然のことながら、本件発明の出願後になつて発表された文献や、出願後に当業者が得た知見によつて、本件明細書の記載を補つたり、修正したりして、これを理解することは、許されない。そして、本件明細書の記載自体から本件発明の内容を理解する限りは、前判示のとおりであるといわざるをえない。
以上のとおりであるから、原告の前記主張は採用しない。右主張に沿う前記各証拠は、証言又は書証の成立の時における一当業者の見解としては理解しうるが、本件明細書の解釈としては採用しない。
6 なお、<証拠>によれば、本件明細書添付図面に示されたものとは異なる形状の装置が「エッチ・ティー・ホールの原設計を修正した一種のベルト装置」として紹介されていることが認められるが、このことによつて、本件発明の圧穿台壁面が垂直であつてもよいと認めることは、以下の理由により、できない。
第一に、右資料の第二図に記載された圧穿台は、一見垂直壁を有するもののように見えるが、その本文の記載から明らかなとおり、第一図と第二図は同一の装置を示したものであり、第一図においては、圧穿台が彎曲部と截頭円錐部を有するものであると認められるから、この装置が垂直壁を有するものとは断定できないからである。
第二に、右資料で用いられている「ベルト装置」という文言が、本件発明に係る装置と同義であると認めるに足りる証拠はない。のみならず、仮にそれが、アメリカにおいて特許された本件発明に相当する発明に係る装置のことを指すものであるとしても、アメリカにおいてその特許制度により特許された発明と、我国の特許制度によつて特許された本件発明とは、その技術的範囲については、独立に解釈されるべきものであるから、本件発明の前記解釈を左右するものとはなりえない。
第三に、一般にある装置がある装置発明の改良されたものであると言われていても、当該装置が厳密な意味で当該発明の実施品そのものであるか否かは即断することができず、それは、当該発明がどのようなものとして出願されたかによつて、結論が異なる。すなわち、当該発明が、その後の改良型もすべて包括しうる上位概念で出願されておれば、その後の改良型がその技術的範囲に含まれることは当然であるが、当該発明が、右上位概念のうちの一類型にすぎないものの形で出願されたときには、その後の改良型が、その技術的範囲に属さないこともあるからである。このことは、右のアメリカ特許についてもいえるし、当然、本件発明にも妥当する。したがつて、アメリカにおいて、垂直な圧穿台壁を有する装置が、一種の「ベルト装置」と呼ばれるとしても、そのことから直ちに右装置がこのアメリカ特許の技術的範囲に属するとはいえず、また、わが国においても、当業者の間で、垂直な圧穿台壁を有するものが一種のベルト装置であると観念されるに至つたとしても、そのことをもつて、本件発明の前記解釈が左右されるものではない。
7 以上の認定は、前記甲第一四号証によつて認められる次のような本件発明に関する技術開発の歴史からも裏付けられる。
本件発明がされる以前は、高圧発生装置としては、ピストン・シリンダー型装置とアンビル型装置が存在していたところ、前者は、比較的反応室の容量も大きく、高温を発生させるのにも適していたが、ダイアモンド合成に必要な五万気圧以上の高圧には耐えられず、特にピストンが破壊するという欠点があり、他方、後者は、常温下で右の程度の高圧を発生することは容易であつたが、ごく薄い資料しか加圧することができず、高温を発生させるのが困難であるとの欠点があつた。そこで、原告の研究員達は、ダイアモンド合成に耐える高温高圧装置の開発に取り組んだ。その結果、まず、ピストンとシリンダーの間にガスケットを配置することが見出された。これにより、ガスケットによつてピストンとシリンダーの間を封鎖するとともに或る程度のストロークを得るという点については、ほぼ目的を達することができたが、ピストンのストロークを十分長くすることができなかつた。この点を改良して、装置の破壊を防止しつつ、ピストンのより長いストロークを可能とするために、シリンダーの開口部を円筒形から円錐形に広げて、すり鉢状の中央孔を有する圧穿台とし、それに対応するピストンを截頭円錐形の先細パンチとして、本件発明の原型ができあがつた。そして、これを上下に重ねれば、反応室も広がるし、加圧後の資料の取出しも容易である点に気づき、更に、反応室に面する壁面を上下に長くして、反応室を更に大きくしても、高温高圧に耐えられることが見出されて、本件明細書添付図面の第4ないし第6図に示された装置にまで行きついたのである。このようにして、本件発明が完成された。
右認定のとおり、本件発明は、円筒状のシリンダーから円錐状の圧穿台中央孔へと発想を転換することによつて、従来のピストン・シリンダー型でもアンビル型でもない、全く新たな類型の装置として創作されたものであつて、本件明細書において示された具体例も、最初に考案されたものよりは、中央孔が長くなり、再び円筒形に近づいてはいるが、内壁の傾斜は失われていないものである。そして、前述したとおり、本件明細書中では、ピストン・シリンダー型装置のシリンダーの垂直壁と対比させながら、本件発明に係る装置の圧穿台の中央孔付近の壁面全体を先細とすることが、構成においても、作用効果においても、強調されている。したがつて、これが、発明者が、本件発明の特許出願をした時点までに到達しえた技術思想の内容であるというべきである。そうすると、その後、本件発明に係る装置を更に変形させて、圧穿台の中央孔に面する壁面を垂直すなわち円筒状にしても、その入口部分すなわち肩部を傾斜させておけば、やはり、同様の高温高圧に耐えうることが見出されたとしても、それを本件発明の技術的範囲に含まれるものとすることが許されないことは前述のとおりである。
三本件発明の構成要件(E)の圧穿台装置の「先細壁部分」の解釈は、以上の構成要件(B)の「先細圧穿台装置」の解釈により、既に明らかになつた。したがつて、本件発明におけるガスケットは、パンチと圧穿台の「先細壁部分」すなわち圧穿台の肩部のみならず中央孔に面する傾斜壁面全体との間に挿入されていなければならない。
なお、原告は、ガスケットの挿入位置について、圧穿台の開孔部の彎曲部付近のみでよいと主張するが、右解釈が誤りであることは、既に二3において判示した。原告は、ここにおいても、明細書の記載をことさらに無視している。すなわち、本件発明におけるガスケットは、原告自身が主張するとおり、単なるパッキングではなく、特別の役割を果たすものであるから、既存の言葉の意味にとらわれずに、本件明細書の記載にしたがつて、その意味を判断すべきである。そして、これも原告の主張するとおり、本件明細書は、ガスケットに、①熱絶縁、②封鎖、③パンチのストロークを可能にすること、④電気絶縁の四つの機能を果たさせることとしているが(3右一五〜二三)、原告は、このうち、熱絶縁をことさらに無視し、他の三つが彎曲部に関するものであるからとして、前記主張の根拠とする。しかし、熱絶縁を無視しうる理由について、原告は何らの主張をしないし、本件明細書自体は、むしろ、熱絶縁を第一の機能として掲げた上、他の三つを「附加的機能」として掲記しているから、原告の主張が明細書の記載に反することは、明らかといわねばならない。そして、本件明細書は、前記二2の(11)の記載においてガスケットが圧穿台壁の彎曲部及び截頭円錐部の「全範囲に沿つて位置するよう構成される」とした上で、前記二1の⑦のガスケットの説明の締めくくりとして、「ガスケット集合体43の固有の大きさ、形状、及び組成は前に記載されたが、前に列記せる要求を満たすガスケット集合体を使用し得ることは明らかである」として、ガスケットの他の変形例においても、圧穿台壁の全範囲にわたつて位置する構成としなければならないことを明らかにしているものと認められる。よつて、原告の主張は採用できない。
四次に、本件発明の構成要件(C)の「協働」の意味について検討する。
1 「協働」とは、「協力して働くこと」である(広辞苑)が、その文言自体からは、本件発明に係る高温高圧装置においては、先細パンチ装置と先細圧穿台装置が別々の働きをするものではなく、両者が相まつて一つの働きをする関係にあることを示していることが明らかである。しかし、それ以上に、右文言に特殊な意味があるか否かは、特許請求の範囲の記載だけでは全く明らかでない。そして、右文言は、本件明細書においては、特許請求の範囲にのみ記載があり、発明の詳細なる説明中には全く記載がない。したがつて、また、その意味を一般的に説明した部分は、発明の詳細なる説明中には、全く見られない。そうすると、右文言は前記の程度の意味で用いられたにすぎないと解するのが自然である。しかし、更に、発明の詳細なる説明における先細パンチと先細圧穿台が協力して働くことに関する記載の中から、その意味するところを見出して、これを確定することにする。
2 そこで、本件明細書の発明の詳細なる説明を見るに、先細パンチと先細圧穿台が協力して働くことに関する記載としては、前記二2の(8)の記載のほかに、次の記載がある。
(12) 「本発明を実施するに当り、或る形式においてはその中に収斂発散孔を有する環状抗圧部材即ち圧穿台が、一対の相対する細先パンチの間に共軸的に配置される。反応容器は、パンチ及び抗圧部材の間の各パンチ上のガスケットと共に収斂発散孔中に配置される。パンチのひとつが運動すれば、パンチ及び抗圧部における力を除去しつつ反応容器中の圧力を発展せしめる。」
(13) 「パンチ23、23'は、壁表面35をその中に備えた中央孔、即ち第5図に図示せる反応槽36のごときその中へパンチ23、23'が試料或は材料を圧縮するよう移動進行する狭い先細の、即ち収斂発散圧穿台室34として一般的に記述された中央孔を有する圧穿台33より成る側圧抵抗部即ち圧穿台集合体42との関連で使用される。先細パンチ及び先細圧穿台室のこの組合わせは、パンチ及び圧穿台の両者の強さに貢献する。各パンチに関して、第1図において筒状パンチ10の唯一面のみが圧縮力に抗し得るが、第4図の先細パンチ23では、前記力は22のごとぎパンチの一面のみでなく、先細表面24によつてもまた対抗される。この故に、先細パンチは効果的に圧縮され、かつ構築され、かつその強さはより効果的に使用される。同時に、後に指摘されるごとくパンチ23の力は圧穿台33の室34の先細表面35に伝達される。再び第1図において加えられた力は室11の垂直壁18に対して全く横方向であるが、第4図においてこれ等の力は横方向即ち水平方向であるのみでなく、室34の水平中心線における完全なる水平より、壁35の傾斜の進行にともなつて水平及び垂直の組合わせの方向に進展する。傾斜面24及び35の特別の組合わせは、力分解効果に貢献する。即ち前記先細面は、第1図における筒状パンチ10上に加えられた実質的に垂直方向のみの力を、第4図のパンチ23上の水平及び垂直方向の力の組合わせに分解する。」
(14) 「パンチ23の傾斜24と先細圧穿台表面35との間の組合わせ及び協力関係は、装置の能力を高温度及び高圧に抵抗するよう大いに増加せしめる装置として図示され、かつ記載された。しかしながら、傾斜付パンチ及び前述の傾斜付開孔部の固有の組合わせは、圧穿台室34内の材料に生じた高圧がパンチの行程或は室内の材料を圧するためのパンチの能力に依存するので、高圧を与えることは出来ない。この故に、パンチ23及び23'のための行程を与えるために、即ち反応容器36或はその中の試料を圧するためにパンチ或は、そのひとつを室34内で移動せしめるために、若干の装置が必要である。本目的を達成するための最も簡単なる方法は、圧穿台33の相対する先細面とパンチ23及び23'との間に弾性ガスケット即ち変形し得るガスケットを配置せしめることである。」
3 右の各記載は、前記二1の①ないし⑬の区分に従えば、(12)は②の一実施態様の概要の説明それ自体であり、(13)は⑤のパンチの説明中に、前記二の(8)は⑥の圧穿台の説明中に、右(14)は⑦のガスケットの説明中に、それぞれ位置する。
このうち、(12)は、余りに抽象的で、「協働」の内容を具体的に読み取ることは不可能である。また、(14)は、その冒頭において「パンチ23の傾斜24と先細圧穿台表面35との間の組合わせ及び協力関係は、(中略)図示され、かつ記載された。」とされているように、既にパンチ及び圧穿台の説明中で述べられたことを受けて、パンチと圧穿台との「協働」は、ガスケットをその間に配置することによつて、初めて起こりうることが述べられているものと解される。したがつて、「協働」の説明は、右(13)及び前記二2の(8)の記載の中にあるものと考えられる。
右(13)及び前記二2の(8)の記載は、前者がパンチの側から、後者が圧穿台の側から説明したものであるが、相当程度重複している。これらの内容の詳細については、大部分既に構成要件(B)の解釈に関して判示したところであるから、再論は省略するが、これらの説明を全体として見れば、先細パンチと先細圧穿台とが、(ガスケットを介して)特別に組み合わされることによつて、構成要件(B)の「先細圧穿台」について検討したように、先細パンチ装置と先細圧穿台装置にかかる力を互に効果的に分解し合い、分解された力が破壊を生じさせようとする力に対抗する力となつて、両者の破壊を防止するよう作用することが、「協働」のもたらす技術的内容であると認めることができる。そして、ここにおいても、右の「協働」が生じる部位は、パンチの先細表面24と圧穿台の先細表面35との間とされているように、圧穿台に関しては、中央孔付近の彎曲した肩部のみならず、中央孔に面する傾斜した壁面全体が、パンチと協力して働くものと記述されていると認められる。このことを端的に表現しているのが前記(5)の「先細パンチ及び先細圧穿台室のこの組合わせは、パンチ及び圧穿台の両者の強さに貢献する。」との記載部分である。右の「先細パンチ及び先細圧穿台室のこの組合わせ」とは、前記したところから、(10)の冒頭の「パンチ23の傾斜24と先細圧穿台表面35との間の組合わせ及び協力関係」に当たることが明らかであるから、右(5)の記載部分は、「パンチ23の傾斜24」と「先細圧穿台表面35」との間の「組合わせ及び協力関係」がパンチ及び圧穿台の両者の強さに貢献するという意味であり、これが、構成要件(C)の「協働」の最も直截な説明であると解することができる。右の35をもつて示される部位が、中央孔付近の彎曲部を含む傾斜して先細となつた壁面全体のことであることは、既述のとおりである。
4 原告は、パンチと圧穿台の相対する側壁がガスケットを通じて相互支持することが、「協働」であると主張する。この側壁とは、圧穿台に関しては、肩部の傾斜部を指しており、中央孔に面する壁面を含むものではない趣旨であるが、右の原告の主張は、以上に判示した本件明細書の記載のうち、一部分のみを強調し、他の部分を無視するものである。したがつて、本件発明に係る装置の特徴的な部分という意味では理解しえても、「協働」の意味をそこに限定する点において、失当というほかはない。その理由は、構成要件(B)の「先細圧穿台」の解釈に関する原告の主張について、詳細に判示したところと同様である。
四1 被告東名が、昭和四七年一月ころから昭和四八年末まで、被告装置を使用して人工ダイアモンドを製造し、これを販売したことは、当事者間に争いがない。
そこで、被告装置が本件発明の技術的範囲に属するか否かを検討する。
2 被告装置を示すものであることにつき当事者間に争いのない別紙目録の記載によれば、被告装置は、截頭円錐形先端部を有する上下一対のパンチと、中央孔が垂直円筒状で孔の上下端部において対照的な直線的傾斜壁面を有する圧穿台を有し、右パンチの截頭円錐形部の円錐側面をガスケットで覆い、ガスケットは、金属製チャンバープロテクターにおいて圧穿台の垂直円筒状の中央孔の上下端部付近に接しているが、圧穿台の直線的傾斜壁面とは接していないものである。しかし、右目録には、被告装置の作動時の状態が表れていないところ、本件発明の構成要件中の「協働」は、装置の作動時の状態に関する要件であることが明らかであるから、被告装置の作動時の状態についても検討することにする。
<証拠>によれば、昭和四二年に小松ダイアモンド工業株式会社が使用していた高温高圧装置は、別紙目録記載の装置と同一の構成を有していたこと(弁論の全趣旨によれば、右会社の装置と被告の使用していた被告装置とは、大きさが異なり、後者のほうが相当大きいことが認められる。)、右会社の装置においては、高温高圧発生時には、ガスケットが変形し、圧穿台の中央孔の垂直壁と傾斜壁の角から一ミリメートル程度の範囲内で、チャンバープロテクターが、圧穿台の傾斜壁を押圧することが認められ、前<証拠>によれば、前記会社の装置に近似した装置においては、高温高圧発生時に、圧穿台の中央孔の垂直壁と傾斜壁の角から約二ミリメートルの幅で、チャンバープロテクターが、圧穿台の傾斜壁を押圧するものと推定されることが認められる。これらの事実によれば、被告の使用していた被告装置においても、パンチの移動に従つてガスケットが変形し、作動前においては接していなかつたガスケットのチャンバープロテクターと圧穿台の傾斜壁とが接するに至り、高温高圧発生時には、その数値を具体的に特定することはできないものの、圧穿台の中央孔の垂直壁と傾斜壁の角から一ミリメートル程度又はそれ以上の幅で、チャンバープロテクターが、圧穿台の傾斜壁を押圧するものと推認される。右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、被告装置は、右の限定された部分においてではあるが、ガスケットを介して、パンチの軸方向荷重が、圧穿台の傾斜壁に伝達され、当該部分を軸方向圧縮応力下に置き、また、パンチの円錐側面及び圧穿台の傾斜壁の右部分において、力の分解が生じるものと認めるのが相当である。そして、右事実が認められる以上、ガスケットと圧穿台の傾斜壁の接触面積が狭いことにかかわりなく、被告装置のパンチと圧穿台との間には、ガスケットを介して、原告主張の「相互支持」が働くものと認めるべきであり、その「相互支持」は、被告装置のパンチ及び圧穿台の破壊防止に程度の差はあるとしても、寄与しているものと認めるのが相当である。このことは、被告らの主張するように、被告装置における中空円筒体に圧力減衰効果があるものと仮定した場合においても、異なるところはない。むしろ、工業生産においては、装置の破壊を防止するために、二重三重に対策を施すことは、通常の手法であつて、被告装置における右の「相互支持」も、それのみで破壊を防ぎうるだけの効果があるかについてはこれを確定しうる証拠はないが、破壊防止(耐用回数の増大も破壊防止に外ならない。)に寄与していることには、変わりがないものというべきである。
3 ところが、右の「相互支持」による破壊防止効果があることだけをもつて、被告装置が本件発明の技術的範囲に属するものと断ずることはできないのは、もちろんであつて、被告装置が本件発明の構成要件の全てを充足するか否かについて、検討する必要がある。
被告装置が、本件発明の構成要件(A)及び(D)を充足していることは、当事者間に争いがない。
本件発明の構成要件(B)における「先細圧穿台」が、その中央孔に面する壁面がその先端の水平中心線に至るまで次第に細くなつており、かつ、少なくとも右壁面の端部付近が彎曲しているものでなければならないことは、前判示のとおりであるところ、別紙目録によれば、被告装置の圧穿台は、中央孔に面する壁面が垂直円筒状であり、かつ、右壁面の端部は角をもつて直線的傾斜壁面に続いており、彎曲した部分を有しないものである。したがつて、被告装置は、本件発明の構成要件(B)を充足しない。なお、証人箕村茂の証言中には、被告装置の圧穿台の右角の部分には、工作上生じたいわゆるアールが存在し、これが本件発明における彎曲部に該当する旨の部分が存する。しかし、装置の構成としての「彎曲部」が、角の部分に工作上不可避的に生じるアールを含むとするのは、多くを論ずるまでもなく、到底とりえない解釈である。したがつて、被告装置は、本件発明の構成要件(B)を充足しない。
本件発明の構成要件(C)の「協働」が、前記のような「先細圧穿台」と先細パンチとが特別に組み合わされることによつて、装置にかかる力を効果的に分解し、破壊を生じさせようとする力に対抗する力となつて、破壊を防止するよう作用することであることは、前判示のとおりであるところ、被告装置は、前記のとおり、圧穿台の中央孔に面する壁面が垂直円筒状であり、かつ、その端部に彎曲部がないものであつて、「先細圧穿台」とはいえないから、右の特別の組合せを有さず、右壁面において本件発明に特有の前記した力の分解が生じることもないと認められる。したがつて、被告装置は、本件発明の構成要件(C)を充足しない。
そして、本件発明の構成要件(E)におけるガスケット装置が、先細パンチ装置と圧穿台の先細壁部分との間に挿入されていなければならないことは、前判示のとおりであるところ、被告装置は、前記のとおり、圧穿台の中央孔に面する先細壁面を有しないうえ、別紙目録によれば、ガスケットは、圧穿台とは、中央孔の上下端部付近のみにおいて接しているものであることが明らかである。したがつて、被告装置は、本件発明の構成要件(E)も充足しない。
以上のとおり、被告装置は、本件発明の構成要件(B)、(C)及び(E)を充足するものではないから、本件発明の技術的範囲に属するものと認めることはできない。
五以上のとおりであるから、被告装置が本件発明の技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(牧野利秋 川島貴志郎 大橋寛明)
物件目録
添付第一図及び第二図に示すような、中央孔が垂直円筒状で孔の上下端部において対称的な直線的傾斜(截頭円錐形断面)壁面を有する内厚の中空円筒(圧穿台)と、截頭円錐形先端部を有する上下一対のピストン(パンチ)とを有し、パンチの円錐側面を圧穿台孔の傾斜壁面からやや間隙をおいて配置し、パンチの上下の円形先端面と圧穿台中央孔壁面とで試料を充填する反応室を形成するようにし、圧穿台の円筒状内孔内に、その内壁に接してマグネシヤ、アルミナのごとき物質でつくつた中空円筒体を挿入し、パンチの截頭円錐形部の円錐側面をガスケットで覆い、パンチ先端を反応室内に進行せしめる機構を備えた、高温高圧発生装置。
(図面の説明)
(一)第一図は高温高圧装置の全体の断面図である。
1及び2はピストン(パンチ)でタングステンカーバイト・コバルト合金製であり、4、7、5及び8の鋼材の輪により補強され、更にその外側は輪10及び11により保護されている。
3は圧穿台でタングステンカーバイト・コバルト合金製であり、6及び9の鋼材により補強され、更にその外側を輪12により保護されている。
13、14はピストン1、2を加圧機械19、19'より電気的に絶縁するためのベークライトよりなる絶縁物、15、16は圧穿台補強部分とピストン補強部分とを電気的に絶縁するためのベークライトよりなる絶縁物である。
17、18は電源と接続される電導体である。
(二)第二図は反応容器を装着した装置中心部の加圧前の断面図である。
3は圧穿台であり、その内壁A1A2の壁面はピストン1、2の圧縮方向と平
行に垂直である。
Eは剛性のマグネシヤ、アルミナの如き物質からなる中空円筒体である。
G1G2は白色素焼様物質、H1H2は金属製チャンバープロテクター、I1I2は金属製ピストンプロテクターである。
1及び2はピストン(パンチ)であつて、それぞれ截頭部C1C1C2C2並びに先細部C1D1、C2D2を有する。
C1C1、C2C2の中空円筒体Eの内壁により囲まれた部分が反応室である。